天なびコラム

第7261話

2020年09月13日

風見鶏の見る空

@私は仕事でいくつもの計測機器を扱うのですが、その内の風向計は非常にシンプルです。
矢羽根式という、一本の矢羽根が風下方向にたなびき、その角度を記録するだけの、風見鶏と全く同じ原理のものです。

ASNSで、気象に関心の高い人たちの投稿を見ていると、雲の動きのタイムラプス動画を見ることがたまにあります。
たいていはカメラを固定して数分から数時間、同じ方向の雲の動きを撮影しているのですが、この前、風にあおられてカメラの向きが途中で変わっているものを偶然見かけました。

B数年前、とある見晴らしのいい灯台に旅行で行った時のこと。
その時はものすごく海風が強くて、風が吹いて来る海の先を眺めていると、手に掴んでいる柵がハンドルに思え、海を疾走しているバイクに乗っているような感覚になりました。
上空の雲を見ると、地上の風向よりも左から流れていて、温度風の関係からこれから気温が下がるなと感じました。

上記の3つがふと、私の頭の中でつながりました。
風見鶏にカメラを取り付け、常に風上にカメラを向けてタイムラプス動画を撮ったらどんな光景が見えるでしょうか。
まだ一度も撮影を試せてはいませんが、想像してみましょう。
あまり知られていませんが、温度風の関係というものがここでは重要になります。
まず、地上の気圧がほぼ同じで、温度差のある空気が水平方向に接している状況を考えます。冷たい空気のほうが密度が大きいのに地上では気圧がほぼ同じということは、上空では冷たい空気のあるほうが気圧が低く、寒気側を中心に低気圧のような左回りの風が起きます。
これが平行移動してくる場合、例えば、暖気の中にいるときに寒気が真正面から来る状況を考えましょう。地上では真正面から風が来るのですが、上空では左回りの成分が加わって、地上の風向よりも左寄りの風になります。
逆に、暖気が迫ってくるときは、上空では地上の風向よりも右寄りの風になります。
このように、温度差のある空気の移流と、高度による風向のずれの関係を、温度風の関係と言います。
私がBで感じたのもこれです。
これを踏まえて、常に風上を向けているカメラに何が映るかを考えてみましょう。
雲があれば、地上と上空の風向のずれがわかりやすく見え、温度風の関係が見えるようになると考えられます。
実際には、地形や建物による風向の変化などもあり、温度風がそのままはっきり見えるわけではないと思いますが、 常に風上を向くという視点の変化によって今まで見えなかったものが見えてくると思います。
風見鶏ってこんな名前をしていますが、実は風を見ているのではなく、気温変化を見ているのではないかと私は思います。


執筆者:ありんこ