天なびコラム

第7872話

2022年05月17日

リクレル数問題

時間は不可逆です(挨拶)。
例えば、床に散らばったガラス片と水が、勝手に集まってガラスコップになってその中に水が収まって机の上に乗るという動画を見たら、逆再生だとすぐわかります。
身の回りの多くの出来事は、動画に撮って逆再生すると、現実にはあり得ない動きをします。時間は不可逆だからです。

数の表記体系は不可逆です。
例えば、101という数字。このような、右から読んでも左から読んでも同じになる数を回文数と言います。これを少し書き変えてみましょう。
一の位の1を2に書き換えて102にするのと、百の位の1を2に書き換えて201にするのは、似ているようで全然違います。
元の数からの変化は、前者は1%程度なのに、後者は倍近くになります。102と201は全然別の数です。
このように、数の表記体系は不可逆と言えます。

時間が不可逆なのと同じくらい、数表記体系も不可逆だと思うので、回文数には数学的に面白い定理は何もないだろうと私は思っていましたが、「リクレル数問題」という興味深い問題を最近見つけました。
例えば、56という数字。これの順序を逆にした65を足してみると、121と、回文数になりました。この、「元の数に順序を逆にした数を足す」という操作をリクレル操作と言います。
例えば、57という数字(57は素数)は、リクレル操作をすると、57+75=132となります。得られた132にもう一回リクレル操作をすると、132+231=363となります。57はリクレル操作を2回すると回文数になります。
ほとんどの自然数は、リクレル操作を繰り返せば回文数になりますが、"全ての"自然数が、リクレル操作を繰り返せば回文数になるかは、実はまだわかっていません。リクレル操作を無限に繰り返しても回文数にならない奇妙な数のことをリクレル数と呼び、「十進法でリクレル数は存在するか」という問題がリクレル数問題です。
十進法と書きましたが、それ以外の進法ではリクレル数が見つかっているものもあります。2進法、4進法、8進法、16進法……など全ての2の累乗進法では、比較的わかりやすいリクレル数が見つかっています。その他には11, 17, 20, 26進法でも見つかっています(奇妙な数字の並びですね)。十進法を含む、その他の進法ではまだリクレル数が存在するかわかっていません。
こうしてみると、回文数にどこか深い意味があるように感じます。回文数に面白いことはないだろうなあという何気ない疑問から、数学の深みに足を突っ込んでしまったようです。


執筆者:ありんこ