天なびコラム
第5617話
2016年03月14日
低気圧の志
天気図の主な登場"人物"といえば、高気圧と低気圧です。
「高気圧に覆われると晴れて、低気圧が近づくと天気が悪くなる」
このことを知った時から、私の中ではなんとなく「高気圧主役、低気圧悪役」というイメージが定着しました。
低気圧が近づくと、「高気圧さん、早く低気圧を追い払ってくれ!」という気持ちになったものです。
しかし、気象について学ぶにつれて、低気圧には重要な役割があることを知りました。
それは「南北の気温差を緩和すること」です。
太陽から受ける熱エネルギーには緯度によって大きな偏りがあり、放っておくと低緯度はどんどん暑く、高緯度はどんどん寒くなります。
そこで登場するのが低気圧です。低緯度の熱くなりすぎた空気と高緯度の冷え切った空気をかきまぜて、気温差を解消しようとします。
ひととおりかき混ぜ終えると、低気圧は役目を終えて消滅します。
このことを知って、私は低気圧を見る目が変わりました。
気温差の緩和に身を捧げ、その実現と引き換えに消滅してしまうなんて、自らの身を賭して理想の社会の実現を目指した志士のようではありませんか。
幕末の志士を主人公にした小説やドラマが数多く存在することを考えれば、高気圧より低気圧のほうがよっぽど主役にふさわしいのかもしれません。
このところ、日々の寒暖差がとても大きくなっています。
これはまさに低気圧が冬の冷たい空気と春の暖かい空気をかき混ぜているからです。
時代の変わり目に志士たちが躍動したように、季節の変わり目には低気圧が躍動します。
勢い余って災害をもたらすこともあるのが玉に瑕ですが、低気圧が空気をかき混ぜるたびに、少しずつ春らしさが増していきます。
新しい季節の幕を開けんとしている低気圧たち。その活躍を見守りたいと思います。
執筆者:瓢箪