天なびコラム
第8392話
2023年10月19日
絶壁
先日、黒部ダムで有名な黒部峡谷を歩いてきました。
歩いたのはトロッコ鉄道の終着駅から黒部ダムまで続く約30kmの登山道です。
この区間は「下ノ廊下」と呼ばれ、「廊下」で表されるように断崖絶壁に挟まれた深い谷がずっと続いています。
地形的条件から道は崖がくり抜かれ、片側は絶壁、もう片側は何もない(踏み外したら一気に谷底へ)という箇所が大半です。
その危険性から「黒部にケガなし」(黒部で転んだらケガでは済まない)という言葉があるほどです。
実際歩いてみるとよくこんなところに道を作ろうとしたな、と思いました。
この道は戦前に水力発電の電源開発のため作られた道でした。
道中には仙人谷ダムという発電用ダムがあります。
人を寄せ付けない雰囲気の峡谷の中に急に巨大な建造物が出てくるため、異様な景色になっていました。
当時の建設は高熱の中での作業といった過酷な環境もあり、「黒部の太陽」で有名な黒部ダム建設を超える300以上の命が犠牲になったといわれています。
趣味で訪れた私とは違い、電力というインフラのために命がけで戦った当時の人を思うと本当に頭が下がります。
この例に限らず、私たちが当たり前のように享受している暮らしは多くの犠牲を伴って成り立っています。
そのことを忘れずに生きていきたいと思いました。
執筆者:ぴーる