日本には数多くの夜景スポットがあり、中でも函館・神戸・長崎は「日本三大夜景」として有名です。これら3都市は「〇万ドルの夜景」と呼ばれることがありますが、実際のところはどこが一番の夜景なのでしょうか?
私たちは3都市の夜景を数値化し、比較することを試みました。夜景を複数の要素で検証し数値化するのは、初の取り組みとなります。結果はいかに!?
目次
「夜景の数値化」とは?
今回数値化したのは、
・「明るさ」
・「面積」
・「広がり」
の3つです。
夜景の要素としてまず思い浮かぶのが「明るさ」ではないでしょうか。夜の闇の中、街が明るく輝くほどきれいに見えます。ただし、景色のごく一部だけ明るくてもそれは「良い夜景」とはいえません。
都市夜景の俯瞰景に関する計量分析 − 函館市を対象として
渋谷ら(2004)の図に加筆
そこで、夜景の「面積」や「広がり」にも着目して数値化することにしました。「面積」は夜景として見える街の面積の合計を表すのに対し、「広がり」はそのスポットに立った人の視野の中で夜景がどれだけの割合を占めるのかを表しています。たとえば上の2つの写真で、「面積」は同じですが「広がり」は上の「表夜景」の方が大きいです。
計算方法
ここからは3要素をどのように数値化したか、具体的に説明していきます。
夜間光データ
日本付近の放射輝度(「夜間光データ」)の対数表示(log10)
単位は[nW/cm2・sr]
「ある地点がどれだけ光っているか?」を数値化したデータとして、「夜間光データ」を用います。これは、NASAのSuomi NPPという人工衛星に搭載されているVIIRSというセンサーで観測したデータで、夜景の「明るさ」を表しています。
地形データ
夜明るい街の近くにあるスポットでも、その街との間に山があると街からの光は遮られてしまい、スポットから街は見えません。そこで、スポットから(地形に遮られることなく)見渡せる範囲をJAXAのALOS全球数値地表モデル(DSM)という地形データを用いて計算しました。さらに、先ほどの夜間光データも加味することで夜景の「面積」を算出しています。
光の減衰
遠くの光を見るとき、スポットから見える光は光源の間近で見るよりも弱まって見えます。これは、光が大気によって散乱されたり吸収されたりしているためです。このことも計算時に反映しています。
視野立体角(「広がり」)の計算
「視野立体角」とは、「ある領域が人間の視野の中でどれだけの割合を占めているか?」を表す量です。これが「広がり」を表す量です。
人間の視野の考慮
夜景を見るといっても、周囲360度を同時に見渡せるわけではありません。今回の計算では、120度の範囲を同時に見ていると仮定しました。計算する3要素について、それぞれ最大となる方向で比較します。
日本三大夜景の紹介
ここで、今回比較の対象となる「日本三大夜景」について簡単にご紹介します。
函館山(北海道函館市)
日本三大夜景に選ばれているのは標高334mの函館山から眺めた夜景で、海と海に挟まれた独特の風景が印象的です。
摩耶山掬星台(兵庫県神戸市)
神戸の街を上から見下ろす位置にある摩耶山掬星台(まやさんきくせいだい、標高約700m)からの夜景が日本三大夜景に選ばれています。遠く大阪府の湾岸地域まで見渡すことができるのが特徴的です。
稲佐山(長崎県長崎市)
長崎は海と山に囲まれた独特の地形をしており、それを標高333mの稲佐山から眺めた夜景が日本三大夜景に選ばれています。
どの夜景も本当に魅力的ですが、今回一番を手にするのはどこになるのでしょうか!?
計算結果
お待ちかねの計算結果です!
函館 | 神戸 | 長崎 | |
---|---|---|---|
明るさ | 100 | 74 | 64 |
面積 | 19 | 100 | 4 |
広がり | 100 | 46 | 99 |
※表内の値は3地点中トップの地点の値を100としたときの値です。
「明るさ」:夜景の街灯りの光の強さの合計
「面積」:夜景として見える街の面積の合計
「広がり」:視野の中で夜景がどれだけの割合を占めるのか
※各指標を5段階評価の指数として表したものです。
函館が「明るさ」「広がり」の2指標でトップでした。神戸と比べて夜景として見える街の面積は狭いですが、間近に市街地を見渡せる立地の良さが高い値につながったと考えられます。
長崎はトップの指標はないながら、「広がり」では函館に迫る値となりました。こちらも函館と同様に間近に市街地を見渡せることが影響していると考えられます。
一方で神戸は他の2地点と傾向が違いました。まず、「面積」が他2地点を圧倒していました。一方で「広がり」は他の2地点と比べて伸び悩みました。遠く大阪まで展望できるという特徴は「面積」にはかなり貢献するのですが、「広がり」に対しては遠くの方は線のようにしか見えず、ほとんど影響を与えません。
まとめ
さて、「どこの夜景が一番か?」を発表します。今回は三角形の図に示した「5段階評価の指数」の合計で判定します。明るさ、面積、広がりの順で、
函館は5+1+5=11
神戸は4+5+2=11
長崎は3+1+5=9
となりました。函館と神戸が11と同率で並んでいるのですが、そのうち「明るさ」「広がり」の2指標でトップになっている函館とします!おめでとうございます!
なお、今回の計算結果は夜景の魅力の中でも一部分を数値化したものです。夜景には他にも数値に表すことが難しい魅力がたくさんあります。たとえば今回の計算で他の2地点と比べて目立たなかった長崎は、山々に囲まれた独特の地形との調和などが評価され、「世界新三大夜景」にも選ばれています。
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お天気ナビゲータでは夜景の研究・開発を行っています。今後も同様の手法を用いて計算できる地点を増やしていく予定です。
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