天なびコラム
第3885話
2011年06月17日
貴く腐る
梅雨の季節は生鮮食品だけでなく、植物の管理も大変です。
花屋では、この時期「灰色かび病」に神経を使います。この病気の原因となるのが「ボトリチス・シネレア菌」です。カビの一種で、特別珍しいものではなく広く分布している菌です。切花は特にデリケートなので、小売店も生産者の方も品質管理に相当気を使っています。
しかし、このボトリチス・シネレア菌。
ぶどうに感染すると、歓迎される場合があるんです。
果実にカビが生え腐ってゆくのですが、ただ腐るのではなく「貴く腐る」場合があるのです。
腐るって一般に悪いイメージですが、それが「貴い」なんて不思議ですよね。
実はこの「貴腐」の状態になると、ぶどうは独特の香りを生み、糖度がうんと高まるそうです。これで作るのが「貴腐ワイン」。「ワインの帝王」とも呼ばれ、黄金に輝く超甘口ワインなのだそうです。
美しい花をダメにしてしまうこともあれば、最高級の美味もつくりだす。
同じ小さな菌の働きが、まったく逆の価値になるのですね。菌にとっては、ごく当たり前の変わらぬ営みなのでしょうが。
貴腐ワイン、いつか機会があれば、味わってみたいものです。
執筆者:よっしー