天なびコラム

第5524話

2015年12月12日

雪の降る音

ロックバンド「レミオロメン」が「粉雪」を発表したのは、今から10年前の2005年のことです。
ドラマ挿入歌に起用されたこの曲はロングヒットとなり、2009年には紅白歌合戦でも歌われました。

この曲は何といっても、♪こ「なー」ゆきー、というサビが印象的です。
メロディーの跳躍が意外なうえに、ボーカルの迫力も圧倒的で、聴く者の心を一気に鷲掴みにします。
ロックやポップスにあまり興味は無くても、このサビには聴き覚えがあるという方も多いのではないでしょうか。

私もそのサビに衝撃を受け、この曲を何度も繰り返し聴きました。
ただ、そのうち、不思議なことに気がつきました。
この曲の前奏を聴いていると、故郷の雪景色がありありと浮かんでくるのです。

私は東北地方の豪雪地帯に生まれ育ちました。
そこでは、雪が降ると、世界がこれ以上ない静寂に包まれました。
雲と雪との境界が分からない灰色の空から、 無数の白い雪片が絡まり合いながら舞い降りて、降り積もった雪の中に消えていく。
それは音のない世界です。
「雪の降る音」など、存在しないはずでした。

それにも関わらず、この曲の前奏を聴くと、その雪景色が目に浮かぶのです。
ゆらゆらと刻まれるギターやピアノの音が、雪が舞い降りる世界の静寂を表しているように感じるのです。

10年の年月が流れましたが、今でもこの前奏を聴くたびに、不思議な感覚にとらわれます。
彼らはこの曲に、いったいどんな魔法を施したのでしょうか。


執筆者:瓢箪