天なびコラム
第5555話
2016年01月12日
雪雲はレーダー泣かせ
インターネットの普及は天気予報にも革新的な変化をもたらしました。「気象レーダーによる降水マップをいつでも誰でも見られるようになったこと」はその一つではないでしょうか。出かける前に最新のレーダー画像を見れば、現在地や目的地で雨が降っているかがひと目で分かります。また、これまでの雨雲の動きから、この先雨が降るかを直感的に予想することもできます。私は犬を飼っているのですが、空模様が怪しい日の散歩ではレーダー画像が欠かせません。レーダー画像とにらめっこして、雨雲の切れ間に入ったことを確認して散歩に出かけるようにしています。
そんな便利な気象レーダーですが、実は今、文字通りの「厳しい冬」を迎えています。気象レーダーは雪雲を苦手としているのです。
まず、雪雲はレーダーに映らないことがあります。気象レーダーは、上空の雨や雪の粒に電波を当てて、跳ね返ってきた電波の強さから雨や雪の強さを測定しています。地上付近では地形や障害物の影響を受けてしまうので、観測する高さは約2kmに設定されています。通常の雨雲は厚みがあり背も高いので、これでじゅうぶん観測できます。ところが、冬の雪雲は性質が異なり、それより背が低くても雪(や雨)を降らせることがあります。レーダーはその様子をとらえる事ができません。
それだけではなく、雪は、上空で融けてレーダーを撹乱するという「技」も持っています。「融けかけの雪」には電波を強く反射するという特性があります。そのため、レーダーで観測している高さでちょうど雪が融けはじめていると、実際よりも強い雨(雪)が降っているように見えるのです。このような領域は「ブライトバンド」と呼ばれ、レーダー画像ではドーナツ状の強雨域として見られることがあります。
このように気象レーダーは雪に苦しめられていますが、気象観測の技術は日進月歩です。現在のレーダーの弱点を補うような新しいレーダーが続々と開発されています。
そう遠くない未来に、「昔のレーダーは雪雲が苦手だったものです」と、過去形で語れる日が来ることでしょう。
執筆者:瓢箪