天なびコラム

第6667話

2019年01月28日

豊かさとエネルギー問題

ガスも水道もない山奥で、稲作や養豚を営む大家族。家には、テレビも冷蔵庫もクーラーもない。長男は、弟の子守をしながら、豚の世話をし、薪を割って暖をとり、かまどで炊事を行い、急斜面の山道を歩いて学校に通う日々を送る。

戦前の家族の話ではなく、とあるテレビ番組で特集されていた、原始的な生活を送る2018年の家族の話です。

私は、変わった家族だなーと思って見ていたのですが、その生活を始めた理由を聞いて、いろいろと考えさせられたので紹介します。

その理由というのが、“世界中の戦争や争いは石油や石炭などのエネルギー問題が発端になっている。だから、食べるものと暮らしのエネルギーを自給するライフスタイルこそが「自分たちにできる平和活動」である”というものです。

日本と世界の仕事と産業の歴史を振り返ると、産業革命(1800年代後半)以前は、ほとんどの人が農耕で生計を立てていました。この大家族のような生活が普通だったのです。

しかし、エネルギー革命と産業革命を機に大量生産大量消費時代に突入し、資源大国と工業大国が力を持つようになります。石油や石炭、鉱物などの天然資源に乏しい日本は生き残る戦略を、工業(ものづくり)に懸けました。第二次世界大戦で焼け野原になった後、奇跡的な経済成長を成し遂げることができたのも、“ものづくり”とその“技術力”があったからです。

日本は、天然資源や農作物を輸入する代わりに、工業製品を生産して、その付加価値により豊かになった国です。

今の世の中は物で溢れています。田畑を耕したり、家畜の世話をしなくても、スーパーに行けばなんでも揃います。薪を割らなくても、ボタン一つで風呂が湧いて、米が炊けます。私たちは、肉体労働から解放され、炊事、洗濯、掃除など家事にかける時間も大幅に短縮されました。

こうした豊かで便利な世の中に、原始的生活を送る大家族はこう問いかけます。

「輸入品なのに、国産の物より安い農産物、原価が分からない安価な服、過剰なサービス、絶えず出てくる新商品。それらは誰かの労働や利益を不当に搾取した安価な商品、物量なのかもしれません。」
「第三国の搾取されている人たちの暮らしを守る為、自給していく生き方が平和に繋がると思います。」

テレビ番組では、エネルギー問題に想いを馳せ、自給自足の原始的生活を送る家族を美談のように取り上げていました。

しかしどうでしょう。

より便利で、より快適で、より新しいモノやサービスを求めるのは、人間の根源的な欲求です。前出の大家族は原始的生活を趣味のように楽しんでいるかもしれませんが、私たち日本人の多くはその生活には戻れませんし、戻ることを望みません。

選択的に原始的生活を送っている親はさておき、それに付き合わされて、現代的価値観から掛け離れた生活を強いられる子ども達が不憫に思えました。

私は、日本が食料やエネルギー問題に取り組むのであれば、その方法は原始的生活を送ることではなく、技術力を持って成されるべきだと思います。

エネルギー分野では、再生可能エネルギー。中でも洋上風力発電の技術は向上し、発電コストが原子力発電を下回るという成果も出ています。海に囲まれた日本は、洋上風力発電を積極的に取り入れようと動いています。

農業分野では、ドローンやロボット技術を活用した重労働の自動化、センシング技術やビックデータを用いた精密農業、クラウドシステムの提供による農業知見データの共有と、生産者と消費者を結ぶプラットホームの構築などによる「スマート農業」への取り組みが進められています。技術と仕組みの改革による儲かる農業への一歩です。

我々人間は、より便利で、より快適で、より新しいモノやサービスを求め続けるから、産業革命があり、経済成長があり、IT技術の成長があり、今日の世の中が作り上げられました。

私たちは次の時代に向かって、常に前に進んでいかなくてはいけません。


執筆者:ドローン