天なびコラム

第6692話

2019年02月22日

地獄の行軍

今日以前にもそして今日以降も散々取り扱われるであろう題材ですが私も被害者の一人ですので書かせていただこうと思います。花粉症です。

現時点ではまだ少し目頭がかゆいというくらいでしか花粉の存在を検知しておりませんが、もう間もなく鼻にも影響が及び始めると思うともうこれからの2〜3ヶ月が憂鬱で仕方がありません。

花粉症とは長い付き合いで物心ついたころから花粉症でした。
昔は奈良県に住んでいたのですが、奈良県は県全体が大きな盆地となっており、県総面積の76.9%が森林。南部では吉野杉と呼ばれる国内有数のブランド杉を大量に生やしているため、その杉から発生した花粉は盆地内に満たされるという花粉症患者からすれば想像するだけでおぞましい環境でした。今は大阪に住むようになり昔に比べると症状は緩和されておりますが、帰省するとひとたび症状が暴発してしまい、その後数日間は苦しむ羽目になるので春はなるべく帰省しないようにと心がけております。
また、子どものころは耳鼻咽喉科で処方される薬を飲んでいたのですが、効き始めるまで時間がかかるのと、私の場合効いたところで焼け石に水、とどまらぬ鼻水だったので15歳を超えてからはより強力で即効性のある大人用の市販の薬を服用するようにし、何とか春を乗り切っております。

そんな私には人生の中で明らかに最も花粉症が酷かった日というのがあります。
私の通っていた高校ではほとんど行事ごとはなく年に一度だけ遠足がありました。
毎年三学期末頃に行われるその遠足の名は「吉野山ウォーキング」。
入学時に年間予定表を渡されて『3月』に『“吉野山”ウォーキング』の文字を発見した際に青ざめたのを今でも覚えています。
一年目は悪天候により幸いにも中止となったのですが、二年目は決行されてしまいました。(三年生は受験のため参加しなくて済みます。)
当日近鉄吉野駅についてみると浮かれている生徒たちと、明らかに憂鬱な顔をしているマスク顔の同志たちとが入り混じっておりました。

一年のうちでこの日だけは私服での学校行事参加となるため、日ごろ制服姿しか見たことないクラスメイト達が普段はどのような私服を着ているのかというのが一番の楽しみであり、気になるところであり、オシャレな私服姿をクラスメイトに見せることが実のところ本テーマであるイベントにもかかわらず、私は花粉の付着しにくいツルツルとした素材のウィンドブレーカーを身にまとい、マスクを着用し、髪の毛にも花粉が付着しないようにと帽子を着用して挑みました。
しかし「これでもか!これでもか!」と言わんばかりの吉野山を一日中練り歩かせるコース(しかも千本桜で有名な吉野山に、春に行くにもかかわらず、混雑を避けるため桜の開花前に実行されるのですこのイベント!)。「じゃあ吉野山でなくてもいいじゃないか。」という大多数の花粉症患者生徒からの声(鼻声)はついに聞き入れられることはありませんでした。

結果として完全防備も大自然の前には無力と化し、吉野山ウォーキングもとい地獄の行軍の翌日は、呼吸するのもままならず日常生活に大きく支障をきたすほどの症状が出た、人生で最も花粉症に苦しめられた一日となりました。

今でも春になるたびあの悪夢を思い出します。
一日でも早く花粉症の特効薬が開発されすべての同志に安らかな春が訪れる日を夢見ながら、平成最後のスーパームーンを見上げ、花粉の一切ない月面に思いを馳せる今日この頃でございます。


執筆者:くもおとこ