天なびコラム

第6696話

2019年02月26日

ノイズにまみれて生きていく

昨年9月の台風第21号の襲来では、近畿を中心として記録的な暴風が吹き荒れました。半年近くが経過した今でも、私が住むマンションを囲む柵は一部が倒れたままですし、周辺にはまだ屋根にビニールシートが張られた家が点在しています。台風の接近時に大阪地方気象台が観測した最大瞬間風速は秒速47.4mで、これは室戸台風(1934年)、第二室戸台風(1961年)に次ぐ、観測史上3位の記録でした。

しかし、ビルが密集する市街地では、局所的にそれを上回る暴風が吹いていたことが分かってきました。京都大学の研究チームが先日発表した論文によると、実際の建造物の形状を詳細に再現して数値シミュレーションを行った結果、高層ビル周辺やビルに囲まれた大通りでは周囲よりも風が強まることがあり、最大瞬間風速が秒速60〜70mに達したとのことです。

気象台やアメダスの風速計は、周囲の建物の影響を受けにくい場所を選んで設置されています。気温の観測でも同様で、地面からの熱を避けるため、観測機器の設置場所とその周辺にはわざわざ芝生が植えられています。数千kmにもおよぶ高気圧や前線といった現象を把握したり、長期間の気候変動を観測したりするうえでは、都市化の影響は「ノイズ」となってしまうためです。

しかし、アスファルトの地面とコンクリートの建物に囲まれて生活している都会の住人からすると、それらの観測データが生活空間の実態と離れつつあることも事実です。都市部の強風災害について改めて対策を講じるとともに、人間の生活空間における観測データの収集についても検討すべき時期が来ているのかもしれません。


執筆者:ヒョウタン