天なびコラム

第7929話

2022年07月13日

決定論的で非周期

220と284は友愛数です(挨拶)。
この前のリクレル数の話が意外と好評だったようなので、またしてもお天気とは関係ない、私の趣味の数学の話です。
冒頭の友愛数とは、片方の数のそれ自身を除く約数全ての和がもう片方の数になる組のことです(以下、説明の簡略化のため「それ自身を除く約数」のことを単に約数と書きます)。
220の約数は110, 55, 44, 22, 20, 11, 10, 5, 4, 2, 1で、これらの総和は284です。
284の約数は142, 71, 4, 2, 1で、これらの総和は220です。
友愛数の組はこの他にもたくさん見つかっていますが、新しく見つけるのは大変で、全部でどれくらいあるのか、無数にあるのかどうかはまだ誰にもわかっていない未解決の問題です。

これだけでも面白いのですが、この友愛数の概念をもう少し拡張した、アリコット数列という数列があります(名前が似ていますが私は関係ありません)。ある数からスタートして、 約数の総和を次の数とする数列です。
例えば10からスタートすると、約数は5, 2, 1なので次の数はそれらを足して8になります。
8の約数は4, 2, 1なので次の数はそれらを足して7になります。
7は素数なので約数は1だけで、次の数は1になります。
1は、それ自身を除く約数はないので次の数は0になります(0も同様なので、0になったら終わりとします)。
10からスタートすると10, 8, 7, 1, 0と並ぶ、こういった数列がアリコット数列です。
この他にもいろいろな数からスタートしてみるとある程度パターンがわかってきます。多くの数は最終的に、素数, 1, 0で終わるのですが、ループするものもたまにあります。例えば6や28は約数の総和がそれ自身に戻る完全数と呼ばれ、アリコット数列の中に現れるとその数でループに入ります。同様に、友愛数もアリコット数列の中に現れると周期2のループに入ります。周期3以上でループする数も稀にあり、その組は社交数と呼ばれます。
どのような数からスタートしても、0か完全数、友愛数、社交数のいずれかに落ち着くだろうと予想されていますが、これはまだ証明されていない未解決問題です。
つまり、非周期的で無限に続くアリコット数列が存在するかもしれないということです。

この事実を知ったとき、アリコット数列とは(今のところ)関係ない話ですが、カオス理論を私は思い出しました。「バタフライ効果」という言葉はよく知られていると思いますが、その講演のもととなった論文のタイトルはDeterministic nonperiodic flow(直訳:決定論的で非周期な流れ)といいます。流体力学の法則は決定論的な(予測不能なランダム要素などはない)はずなのに非周期的でカオス的な振る舞いが現れるという、当時としては衝撃的な論文でした。

アリコット数列も決定論的なのに、どこかに非周期で無限に続くものがあるかもしれない(ないかもしれませんが)というのは、なんだかカオス理論と関わりがありそうで深淵さを感じる問題です。
単に約数の総和をとるという簡単な計算から、世界の深淵を覗くような未解決問題にぶち当たるという数学の奥深さを感じる話でした。


執筆者:ありんこ