天なびコラム

第7949話

2022年08月02日

冷やして甘くする

冷蔵庫でキンキンに冷やした果物は、常温よりも甘く感じることがあります。あるいは、シロップを入れた飲み物はホットよりアイスのほうが甘く感じることがあります。
暑さとの対比による心理的な影響でしょうか?
実は、温度によって化学的な組成が変わって本当に甘くなるものがあります。

果物やハチミツや清涼飲料水に含まれる果糖(フルクトース)にその秘密があります。
フルクトースの化学式はC6H12O6ですが、そのうち炭素5つが環になる五員環構造を持つフルクトフラノースと、炭素6つが環になる六員環構造を持つフルクトピラノースがあります。
フルクトースは、直線状の分子状態を経由して五員環構造になったり、六員環構造になったりを繰り返す平衡状態にあります。このうち六員環構造を持つフルクトピラノースは、五員環構造を持つフルクトフラノースよりも3倍甘く感じる成分です。

ではこれが温度によってどう変わるかというと、分子のひずみエネルギーを考えればわかります。
炭素分子6つの連なりを環にするのと、5つの連なりを環にするのでは、5つのほうが、角度をきつく付けなければなりません。なので、六員環を作るより五員環を作るほうがより多くのエネルギーを必要とします。
つまり、周囲に分子の運動エネルギーが少ない低温状態では、五員環になったり六員環になったりするうちの、六員環構造を持つフルクトピラノースの割合が増え、甘みが増すということです。
砂糖の主成分であるショ糖や、バナナの甘さの主成分であるブドウ糖ではこのような温度変化はありません。

この夏はフルクトースを多く含む果物を買い、冷蔵庫で冷やしてフルクトピラノースの割合を増やしてやれば、冷蔵庫を開けるのがちょっと楽しみになるかもしれません。


執筆者:ありんこ