天なびコラム

第8606話

2024年05月20日

雨に誘われた小さな冒険

小学生の時、私たちの学校では定期的に集団下校が行われていました。ある曇り空の日、集団下校の途中で、何気なく一匹の野良猫が道端を横切りました。

好奇心から猫を追いかけることにし、友達から少し離れて猫が消えた裏路地へと向かいました。猫を追っていくうちに、気づけば集団からずいぶんと離れてしまい、その時、空が急に暗くなり始め、ぽつりぽつりと冷たい雨が降り出しました。
急いで近くの小屋の下に駆け込み雨宿りをしましたが、その場所には、私が追いかけていた猫の小さな子猫がいて、どうやらそこに住んでいるようでした。

雨が地面に打ち付ける音と共に、土から湧き出るような甘い香りが漂ってきました。それはペトリコールと呼ばれるもので、雨が乾いた大地に降ることで生じる香りです。そのすこし甘い香りと共に、子猫が安心して眠る様子を見て、集団から離れて不安になっていた心もなぜか穏やかになりました。

雨がやんだ後、子猫にそっと別れを告げて家路につきましたが、その特別な香りと一緒に過ごした時間は、今でも鮮明に記憶に残っています。
梅雨の時期が近づくと、空が暗くなり始めると自然とその日のことを思い出します。子猫との出会いとペトリコールの香りが、雨の日の小さな冒険に彩りを加えてくれたのです。


執筆者:うさぎは