天なびコラム

第8651話

2024年07月04日

最果ての気象台

前回の私のコラムで「はれるんカード」を紹介しました。その際、カードの配布箇所に父島や南大東島があることにもふれました。南鳥島や南極の昭和基地のような特殊な場所を除いた、一般人でも訪問可能な気象観測施設としては、到達難易度はトップクラスに高いでしょう。絶海の孤島ですからね。
ここでは、南大東地方気象台のおはなしをしましょう。

昔から「うふあがり島」(遥か東の島)と呼ばれていただけあって、「大東」の名のとおり沖縄本島から東に360kmほど離れた場所に位置する南大東島。東京と大阪の直線距離くらい離れています。
サンゴ礁が繰り返し隆起してできたこの島は、断崖絶壁で囲まれ長らく人の上陸を阻んできました。高い「うねり」を伴って波が押し寄せることもあるので港の整備が難しく、フェリーも接岸できないほどで、岸壁から少し離れて停泊して人や荷物は大型クレーンに吊られて渡るのです。
遠いだけでなく地形も険しいチャレンジングな島ですが、そんな最果ての地にも気象台があって、日々観測が行なわれているのですから脱帽です。観測露場の温度計や雨量計などによるごく一般的な地上気象観測のほか、高層気象観測も行なっているのが特徴です。
高層気象観測では、ラジオゾンデという温度計などの測器やGPS受信機を取り付けたバルーンを上空へ飛ばして大気の立体的な構造を調べたり、上空版のアメダスともいえる「WINDAS」の観測点として電波で風を測っていて、観測データは天気予報の精度向上や航空機運航の安全確保に役立てられます。特に台風の予測ではゾンデ観測のデータが役立ちます。台風の進路は大東諸島付近を通過したのち本州へと接近してゆくものも多いので、台風観測の最前線として重要な役割を果たしているのです。
ちなみに、毎朝8時半のゾンデ放球は間近で見学可能です。

本土から遠く離れているからこそ、その地点での観測データは貴重で、天気予報や気候変動のモニタリングにとって欠かすことができないものなのです。そう考えると観測業務のありがたみを感じるし、辺境の地でも赴いてみたくなってきますね(?)


執筆者:きぼりぐま