天なびコラム

第8672話

2024年07月25日

部屋の片隅の雪

「ストームグラス」をご存じでしょうか?ガラス容器の中に液体が満たされていて白い結晶が舞う、スノードームに似たもので、インテリア雑貨として人気もあるようです。
スノードームの世界では、サンタクロースがいたりエッフェル塔が建っていたりと賑やかな見た目ですが、ストームグラスにはそういった飾りはありません。それなら何を楽しむのか?となりそうですが、私の場合は、ガラスの中で変化する結晶の様子に静かに魅了されて惚れ惚れとしています。
スノードームに降り積もるパウダーやラメとは違って、ストームグラスの中の白いふわふわの正体は硝酸カリウムや樟脳で、温度などの変化に応じて析出する結晶の大きさや形、量が変わっていくのです。生きたアート作品とでも言えるかもしれません。

そんな特性があるので、最近の私は家に帰るとちょっとした遊びをしています。
朝に出かけてから夕方に帰宅するまでの間に、じわじわと熱気をため込んでゆく自室は、蒸し暑いなかを駅から坂道をのぼって家にたどり着いた私をげっそりとさせます。そこですかさずエアコンのスイッチをオンにするわけなのですが、ある日ふと思いついて、送風の向きを少しいじってみることにしました。
その細工でエアコンの涼しい風は棚の上に置いているストームグラスを狙い撃ちに。結晶がダイナミックに変化してくれるのを期待します。
しばらく様子を眺めていると、思惑どおり結晶がゆっくり成長していきます。小さな粒のような結晶が次第に絡み合い、レースのような精巧な模様を描き出します。時にはそのまま大きく成長し、氷の花火のように広がります。

快適な室温が生み出されるのはクーラーのおかげではあるのですが、自室の一角に現れる小さな雪原のような風景も、静かな時間の流れを感じさせ、心の安らぎや涼しさを与えてくれているようです。


執筆者:きぼりぐま