天なびコラム

第6838話

2019年07月18日

濃霧のランディング

深い霧の中をゆっくりと高度を下げていく飛行機。1度目のランディングは視界不良のため、ゴーアラウンド、約30分空中待機して2度目のランディング。これでダメなら着陸を諦め、近隣の空港にダイバードするという。窓の外は依然、霧に包まれたまま。不安そうに見つめる乗客。すると、突如霧の中から滑走路が現れ、ドンッという小さな衝撃のあと、逆噴射を始める飛行機。どうやらギリギリのところで目的の空港に着陸できたようだ。

これは私が先日、青森へ出張していたときに起きた出来事。視界不良など天候を理由に着陸を諦め、別の空港にダイバードしたり、出発空港に引き返すというのは聞いたことはありますが、私はまだ体験したことがありません。以前、成田空港に着陸する際に雷雲の影響で予定通り着陸できなかったことはありましたが、このときも約30分の空中待機でなんとかやり過ごしました。

それにしても、霧に包まれて周囲が真っ白の状況で、機長はどうやって着陸の可否を判断しているのだろうか。長年の経験で培われた勘なのだろうか。調べてみると、空港の設備によって明確な基準があるようです。

空港には、視界不良時にも安全に着陸できるように計器着陸装置(ILS)が備えられており、着陸する飛行機に向かって指向性の電波を発し滑走路まで誘導してくれます。

このILSには空港の設備によりCAT-I、CAT-II、CAT-III(a,b,c)の分類があり、パイロットが目視で滑走路や進入灯が視認できる距離や、その高さにおいて着陸に必要な目標物が見えなければ着陸をやり直さなければいけない高度(決心高という)が定められています。

たとえば、CAT-I運航の場合、550m先が見えないような視界の状況では滑走路に進入することすらできませんが、CAT-U運航の場合、300m以上先の滑走路を見通すことができ、高度30mの状態で着陸に必要な目標物が見えれば着陸できます。

国内でもっともグレードが高いのはCAT-IIIb運航であり、この場合50m〜175m以上の視界があれば、決心高を制限せず、自動操縦(オートパイロット)により着陸できるとされています。CAT-IIIbを備えている空港は、新千歳、釧路、青森、成田、中部、広島、熊本の7空港のみです。必ずしも重要な空港に取り付けてあるわけでなく、霧が発生しやすい空港に設置されているようです。

私が出張で利用した青森空港は標高約200mの山間部に位置し、春から夏にかけては「やませ」による濃霧が発生しやすい環境にあります。

なお、実際にCAT-IIIb運航をするためには、空港設備だけでなく、航空機の機器もCAT-IIIbに対応したものが装備されていて、パイロットにもCAT-IIIbの資格が必要です。

今回のフライトがCAT-IIIb運航だったのかまではわかりませんが、かなり濃い霧の中でも安全に着陸できたのは事実です。

思えば地元の広島空港も濃霧による視界不良で欠航の多い空港でしたが、設備を新しくしてから欠航が減ったように思います。

こうした最先端のシステムに支えられて、今日の安全運航が成り立っているんですね。


執筆者:ドローン