天なびコラム

第6974話

2019年12月01日

蘇る気象観測凧

「何故、山に登るのか?」「そこに山があるから。」イギリスの登山家ジョージ・マロリー(George Herbert Leigh Mallory)はインタビューにそう答えた(原文は“Why did you want to climb Mount Everest?”“Because it's there.” New York Times, March 18, 1923.)とされていますが、我々の場合「何故、上空の気温や湿度を計るのか?」と問われたら、「そこに空があるから。」と答えてしまいそうなぐらい、上空の気象観測は人間の根源的な欲求のようです。(天気オタ限定??)

さて前回の続き、18世紀半ばに端を発した気象観測凧(Meteorological Kite)は、19世紀末に技術革新が進み1900年〜1910年頃には全盛期を迎えましたが、その後、第一次世界大戦(1914〜1918年)が勃発し電波通信の発達と共に安価なラジオゾンデ(1929年〜)が開発されると、運用コストと安全面の問題から、急速に衰退したのでした。

その後プッツリ糸が切れて途絶えてしまったかのようですが、文献を漁ってみると、20世紀末の近現代になってちょくちょく復活しているようです。主な観測対象は、大気下層〜境界層(地上高度数百〜2000mぐらい)の安定度で、メリットとしては、係留気球観測では危険な強風域(10m/s超)にも対応できること、打ち上げ使い捨ての風船ゾンデ観測では勿体ないような高価な機器も搭載できること、航空機観測よりは安価であること、等々が挙げられています。

凧の形も、18世紀〜19世紀は菱形や六角形、20世紀初頭は箱型が主流でしたが、現代では骨のないパラフォイル型や三角形のデルタカイトが主に使われているようです。写真(挿絵)を見ると、フランクリンの伝記では暗雲の下、必死のパッチ(阪神用語?)で凧糸を繰っているのに対し、現代の凧揚げ観測では晴天の下、健康的で楽しそうに凧を揚げているのが印象的です。

もう一つの気象観測凧のメリットは、低高度の観測であれば一般民間レベルでもわりと簡単に実現できることです。中小サイズの凧であれば一般玩具店や100円ショップ(!!)でも販売していますし、自分で設計・製作するのも面白そうです。気象センサー・データロガーも、ArduinoやRaspberry Piといった小型軽量マイコンボードを用いて(あまり精度や耐久性にはこだわらないのであれば)電子部品店で入手可能なパーツで比較的安価に自作できるでしょう。

凧による気象観測、お子さま・お孫さまの自由研究の題材に如何でしょう??(明らかに大人が入れ知恵していて、子どもらしくないかもしれませんが…)

執筆者:風来坊