天なびコラム

第7024話

2020年01月20日

当たり外れの無い予報

「アンサンブル予報」と呼ばれる予報があります。シミュレーションのスタート地点となる「今の大気の状態」を、少しずつ変えて何パターンも用意して、それぞれについてシミュレーションを行うというものです。わざわざそんな面倒なことをする理由は、「今の大気の状態」を完璧に把握することがきわめて難しいためです。そこでのわずかな誤差が徐々に広がってしまうため、初めから誤差を想定して、いくつものシミュレーションを行っておくというわけです。

いくつものシミュレーションを行うためには、大量の計算が必要となります。それがコンピュータの性能向上により可能になってきました。気象庁が様々なアンサンブル予報を行って、私達もその結果を入手できるようになりました。しかし、複数のシナリオが示されるようになったことで、その解釈は以前より難しくなっています。コンピュータの性能が上がった分だけ、ビシッと当たるシミュレーションができるようになれば良かったのですが、そううまくはいきませんでした。

でも、ちょっと人間の成長に似ているような気がしませんか?知識や経験がまだ乏しい思春期の頃の方が、それを全てと思い込み、「必ずこうなるはずだ」と断定してしまいがちです。・・・と自分のことを一般化してしまいましたが、でも、大人になって慎重な物言いを好むようになった方は、他にもいらっしゃるのではないでしょうか。理想はもちろん正確に予想できることですが、その一歩手前の段階として、自らの限界を冷静に把握して表現できるようになった、とも言えます。

とはいえ、白黒はっきりした予報を出してほしい、という需要は無くならないでしょうし、外れるリスクを引き受けてそれに応え続ける道もあるでしょう。そのほうがエンターテインメント的で好まれる場面もありそうです。近未来の天気予報は、きっぱり言い切る「予報屋系」と、様々な可能性を伝える「解説者系」に大きく二分されていくのかもしれません。なんて、天気予報の未来を「予報」してみました。


執筆者:ヒョウタン