天なびコラム

第7027話

2020年01月23日

ヘリウムガス不足

年末年始は暇に任せて舐めるように新聞を読んでおりましたが、ヘリウムガス不足の記事が複数紙面で取り上げられていたのが目につきました。ヘリウムというと、空気より軽い性質で風船に詰めて使うイメージがありますが、沸点が最も低く(-269℃)安定して燃えない性質から、冷却剤として低温実験や医療・半導体生産などにも用いられています。

ヘリウムは天然ガス採掘の副産物として得られますが、日本では国内使用の100%を輸入に頼っていて、主な産出国の生産量減少と買い占め(アメリカ)や国交問題(カタール)により供給は縮小する一方で、需要は半導体生産の増加により世界規模(特にアジア諸国)で拡大しており、その取引価格たるや過去10年間で4倍にまで高騰しました。

ヘリウムガス不足は今世紀に入ったあたりから何度も問題になりましたが、今回の新聞記事では、学会などの学術団体や大学・研究所などの教育・研究機関が共同で声明を発表したのが問題提起として取り上げられたようです。

気象業界でも、高層気象観測の際にバルーンに詰めて使いますので、ヘリウムガスには随分お世話になっているはずですが、声明団体の中に「日本気象学会」は名を連ねていませんでした。声明文に目を通すと「ヘリウムガス使用後の回収・再利用」を提言しており、高層気象観測では上空でバルーン破裂後のヘリウムガスは回収できませんので、気象業界・気象学会としては声明に賛同しかねるのかもしれません。

また、バルーンに詰める浮力気体として、ヘリウムガスが使えなければ水素ガスを使うという手もあります。現に気象庁の高層気象観測では水素ガスを用いています。気象庁の高層観測地点には、南鳥島や父島や石垣島といった離島も多く含まれており、ヘリウムガスだとボンベを輸送するだけで多大なコストがかかるところですが、水素ガスなら現地で水を電気分解すれば簡単・安価に調達できるのも理由の一つでしょう。
ただし、水素ガスは安定な気体ではなく、引火・爆発の危険性がありますので、取り扱いには細心の注意(と覚悟!)が必要です。(つづく?)

執筆者:風来坊